人生で一番好きなバンドが解散を発表した。
大分落ち込んでいたが、その悲しみが薄れてきたところで全アルバムについて振り返ってみようと思う。
タイトルに解説とあるが、専門的な知識でもって語っているところはなく、限りなく感想に近いということをあらかじめ示しておく。
目次
風をあつめて
1thアルバム(メジャー後初のフルアルバム)。
曲調としては「決意の朝に」「千の夜をこえて」をはじめとするヒット曲代表されるバラードや、「歩み」「マスターマインド」などラップを聞かせる曲が目立つ。
全体として太志の孤独さを感じさせる雰囲気が漂っており、初期にのめりこんでいたリスナーの多くがその孤独感に共感していた。
インタビューでは作詞担当であるボーカル太志氏が一時は「完璧を目指さなくちゃいけない」悩みを抱えるも、ダメでもいいと思えるようになったことを告白しているように、多くの曲が「悩み」とそこからのある種の優しい諦めによる解放を歌っている。
映画「ブレイブストーリー」でヒットした「決意の朝に」をはじめ、「星の見えない夜」「ハチミツ〜Daddy,Daddy〜」「Perfect World」など、明るがあってもその中に切なさが同居した曲が多い。
悲しいだけではなく、ちゃんと前を向いていこうという姿勢はAqua Timezらしさでもあり、この後のアルバムにも基本的にその芯が通っている。
またバンドが急に売れてしまい戸惑いがあったらしいが、それでも「マスターマインド」などからはそれらを乗り越えていく決意が見え隠れする。
「マスターマインド」は軽快なラップで韻の踏み方がとても丁寧で、太志氏の歌い方もどこか斜めに構えながらも楽しそうな感じが漂ってくる。
ラストの「白い森」は、孤独な人同士が世間の中で傷つきあいながらも支えあって一緒に生きていこうという内容の、静かで優しいバラード。
インタビューに「5人が好きなことをやったらこうなった、というか。とにかく、いろいろな側面があるアルバムなので、様々な楽しみ方をしてもらえるんじゃないでしょうか。」とあるように、曲調はこの頃からバラエティー豊か。
本アルバムの本人たちによる解説などはインタビューを参照。
ダレカの地上絵
2ndアルバム。
1stに続き、孤独でダークな雰囲気は「世界で一番小さな海よ」「秋の下で」などで漂わせているが、そこから開き直ろうとしている「乱気流」などが印象的な一枚。
一曲目の「一瞬の塵」はボーカルの太志氏が「シングルでは絶対やれないことをまず一曲目にやりたかった」と言っている通り、JAMIL(ジャミル)参加のラップを聞かせる思いっきり強い曲で、初期のAqua Timezの「優しい」というイメージを持っていた人はなかなか仰天していたのではないかと思う。
甘めのレゲエ「B with U」、優しくてキラキラしたサウンドのバラード「僕の場所〜evergreen〜」、疾走感の気持ちいいバンド曲「ピボット」など、曲調にも広がりを見せている。
ゆがんだギターと美しいストリングスの対比で静と動を出している「ガーネット」は、間奏のオーボエソロも美しく哀愁漂う切ない一曲。
三ツ矢サイダーのCMでヒットした青春ソング「しおり」や、世間にAqua Timezのロックというものを提示した「ALONES」、ボーカル太志氏が喉の不調で一時期活動を休止していたときの周りへの感謝をつづった「小さな掌」など、収録シングルも名曲と名高い。
本アルバムの本人たちによる解説などはセルフライナーノーツを参照。
うたい去りし花
3rdアルバム。
曲調としては特に前2つのアルバムを聞いていれば驚きをもって聞けるようなものはないが、全体的に明るさを感じられるようになってきている。
歌詞についてもこの頃から、孤独よりも周りへの感謝であるとか、対人の絆を取り上げたものがちらほらと出てくる。
全体的には1曲目の「BIRTH」と14曲目の「Re:BIRTH」に挟まれた構成となっている。
暗くなりがちな別れソングが2曲もあるが、(仲間との別れ:「別れの詩 -still connected-」、恋人との別れ:「きらきら 〜original ver.〜 」)そのどちらも曲調は明るく、歌詞は再開した際の喜びを予想するようなものとなっている。
強めのロック曲は「massigura」「月、昇る」「この星に」など。
アルバム表題曲である「うたい去りし花」は、バンド結成前から存在するだけあって前2つのアルバムに通ずる暗さであるとか、孤独を感じさせられるこのアルバムにしては珍しい曲。それでいてテーマとしては今を生きていることを歌っており、4th以降の生死を強く意識したアルバムの鱗片をのぞかせている。
太志氏が「歌うべきことを一番詰め込めることができた曲」と言っているだけあり、質量の大きな曲となった。
本アルバムの本人たちによる解説などはインタビュー記事を参照。
カルペ・ディエム
4thアルバム。
前作で若干明るくなったと思いきやまた少し暗めのテイストのアルバム。おそらく全アルバムの中で一番重いと思われる。
また、この頃から若干のファンタジー感を匂わせてくるようになった。
ラテン語で〈今日という日の花を摘め〉という意味を持つ表題曲「カルペ・ディエム」やラテン語で〈自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな〉という意味の「メメント・モリ」など、《生と死》《今》を意識した曲が目立つ。
「メメント・モリ」はギター大介氏がアレンジに難航したと言っている通り、イントロ、AメロBメロ、サビでかなり静と動がある曲となった。この曲を再度アレンジしたライブバージョンはファン人気の高い一曲で、「アスナロウ」のライブ盤「Aqua Timez アスナロウ TOUR 2017 FINAL “narrow narrow”
「百年の樹」「銀河鉄道の夜」で歌われるように、今よりももっと前へ進むことを歌っているのは1stアルバムの時から一貫している太志氏の主張でもある。
このアルバムは割と人を選ぶように思う。重めのテーマを好む人にはとても合うが、明るいものを求めている人にとっては少し消化不良を起こすのではないかと思う。
ただ「MILKY BLUES」「Let Loose」「GRAVITY Ø」などの盛り上がるバンドサウンドも健在であるし、「真夜中のオーケストラ」は聞いていてさわやかな気分になる。
本アルバムの本人たちによる解説などはインタビュー記事を参照。
because you are you
5thアルバム。
それまでとは打って変わり、ロックバンドとしてのAqua Timezを届けたかったのだろうか、ライブを意識した作りの曲が多い。
後でこの頃を振り返った際のインタビュー記事の中でも、ロックシーンやライブを強く意識して作成していたと言っているため、他喉のアルバムよりもライブ感が強い印象。
表題曲の「because you are you」や「輪になって」は乗りやすい曲調とテンポの上ライブでみんなで歌えるようなパートがあるロックナンバーだし、「オーロラの降る夜」「MASK」はギターがゴリゴリなる強めの曲。
「鉛色のフィクション」は太志氏の遊び心が見え隠れするちょっと「ズルい」曲(誉め言葉)。
11曲目の「兎のしっぽ」はパーカッションが活躍する曲であり、長い間奏を打楽器が遊びまくっていてライブ映えがする。
実際ツアーで演奏した際はメンバーが打楽器に挑戦し、かなり盛り上がった。
「good sleep」などポップでファンシーで甘くかわいらしくい曲や、ラストの優しい気持ちになれるバラード「HOME」など、バラエティにも富んでいる。
「HOME」は歌詞の優しさもそうだが、バンドのサウンドとしても重厚だが優しく、ストリングスやグロッケンのキラキラ感が素晴らしい。
本アルバムの本人たちによる解説などはインタビュー記事を参照。
because you are you(初回生産限定盤)(DVD付)
エルフの涙
6thアルバム。
それまでとは大きく異なり、絵本や童話のようなテイストが強めの1枚。
シューゲイザーの「アダムの覚悟」、アンサーソングの「イヴの結論」、シングルの「エデン」、表題曲でもあるラスト「エルフの涙」など、ファンタジー系の曲や、絵本のような「赤い屋根の見える丘へ」が目立ち、現実の孤独感を歌っている初期アルバムとは大きく作風が異なる。
テーマとしても愛や希望など、初期から一貫しているものだが初期よりも対人意識が強く、歌詞にも「あなた」を示す言葉が多い。
曲調はあたたかなものが多く、ジャケットからして全体的に暖色系。
特にアコースティックでメロウなヒップホップ「ヒナユメ」は孤独感の強かった初期の太志氏には書けない大人の余裕が表れている。
かわいらしい恋愛ソングかと思いきやラストでちょっと驚く「オムレット」、ボーカルにエフェクターがかかり変拍子も取り入れた盛り上げソング「滲み続ける絵画」、君らしくいようというメッセージソングでありライブで盛り上がるギターロック「ゴールドメダル」など相変わらず曲調の幅は広い。
表題曲「エルフの涙」は4拍子から始まり、ストリングスの劇的で特徴的な間奏を挟んだ後は8分の6拍子に変化を遂げる。
ボーカル太志氏がショパン作曲の「別れの曲」を聴きインスピレーションを受け、子供が大人になっていく過程を表現したかったというその見事なアレンジは息をのむ。
かっこいいリリックとライムで何を歌っているのかと思いきやひたすらラーメンへの愛をぶちまけている「hey my men feat.OK.Joe」は個人的に必聴の一曲。
本アルバムの本人たちによる解説などはインタビュー記事を参照。
アスナロウ
7thアルバム。
前作で強めた絵本や童話の印象は薄まり日常感が出てきた。
曲調がまた広がり、EDM曲の「空想楽」やアイリッシュというのだろうかそんな感じの民族音楽を取り入れたアップチューン「ソリに乗って」、遊び心満載の「ナポリ」「Dub Duddy~ライブ前日に見た夢~」など聴いていて楽しい曲が多い。
個人的には「三日月シャーベット」が、イントロのギターの多幸感、サビのキラキラ感とAメロBメロの俗世感とのギャップが楽しくて好きだ。
表題曲の「アスナロウ」はこのアルバムが発表される前にUVERworldとの対バンを行ったり、ボーカルのTAKUYA∞氏との交流が増えて強く影響を受けたためか、UVERworldのテイストを感じさせる印象を持った。
1stアルバムでは、「ダメでも大丈夫」というメッセージが強かった歌詞が、ここで大きく「何があってもへこたれず走り続けよう」というカラーを強めてきた。
ただ、「自分らしく」という軸は初期から変わっていない。
太志氏はインタビューで「15年、20年と続けていくためには、(メンバーに対する)仲間意識みたいなものに甘えてちゃいけない」と言っているが、そのような上昇志向が「アスナロウ」という曲の歌詞やサウンドに表現されている(結局は仲間意識から抜け出せなかったのだろううか、その結果の解散なのだろうか)。
「We must」「12月のひまわり」「Pascal」など丁寧な言葉を聴かせるバラードもある。
シングルにもなったアップテンポのバンド曲「生きて」は、メロディはかっこよくそれでいて優しいし、歌詞はどう表現したらいいのか難しいがとにかく「人間愛」に溢れていて、Aqua Timezの持ち味であるストレートかつ優しい感じがこれでもかというほどに体と心にしみわたってくる。
本アルバムの本人たちによる解説などはインタビュー記事を参照。
二重螺旋のまさゆめ
8thアルバムにしてラストアルバム。このアルバムを発売した後、全国ツアーが始まる直前に解散発表をした。
解散の発表がされる前から一部のファンはアルバムラストの曲「last dance」の歌詞から解散が近いのではないかということを感じ取っていたが、以前にも3rdアルバムに「別れの詩 -still connected-」という曲があったことなどから杞憂に終わる可能性が高いと思われていた。
が解散が発表され改めて聴いてみるとそれを示唆したようななかなかに切ない歌詞の曲が多い。
先出の「last dance」はもろに再会を望んでいるかのような歌詞であり、ほかにも「愛へ」「タイムマシン」などは、直接に解散を歌っているわけではないが(タイムマシンなんかはむしろ表向きカップルの別れの曲)なんとなく示唆されているように感じているファンが多い。
「愛へ」や、「遊び疲れて」という短いトラックでもそうだが、「眠り」というワードを頻繁に歌詞に登場させている。これは「終わり」へのメタファーなのかと勘繰る。
そうであるなら、いつかはまた目覚めるのだろうか。
6thアルバム「エルフの涙」からのファンタジー感は「未来少女」から感じられる。
また、AKB48の恋するフォーチュンクッキーに影響を受けたと本人たちが公言する「日曜賛歌」や、ライブで盛り上がる王道のロックナンバー「over and over」、遊び心を忘れないハードロック「ミックス茶」や「+1」などライブで楽しい曲ももちろんある。
相変わらずに曲調の幅が広く聞きごたえがあるが、解散を意識して作ったことを感じられるため楽しい曲でもどことなく切なさを感じるのはバイアスがかかっているからだろうか。
本アルバムの本人たちによる解説などはインタビュー記事を参照。
まとめ
Aqua Timezの曲を改めて振り返ってみると、曲調の幅の広さがやはり特徴的かなと感じた。
また、初期は孤独で下を向きがちな人が頑張って上を向いて前に進んでいこうとしている歌詞が多かったが、枚数を重ねるごとに人とのつながりや感謝を持ち、同じ気持ちを持っているみんなで前に進んでいくということを綴った歌詞へと変化していったのがとても印象的だった。
Aqua Timezは解散してしまうけれど、その軌跡はちゃんと曲として残り、ファンやかつてのリスナーの胸にしっかりと残っていくのだと思った。
というかそうであってほしい。